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論文読み: Physically Plausible Simulation for Character Animation (SCA '12)

論文 SCA 2012 CG

今回は、1年以上前にプリントアウトしたまま読んでいなかった論文を発見したので、それについてです。

論文について

Sergey Levine, and Jovan Popović.
Physically Plausible Simulation for Character Animation
SCA '12
http://www.stanford.edu/~svlevine/

2年前の SCA (アニメーションを扱う有名な国際会議) で発表された研究です。

論文の概要

Character animation (三次元キャラクタのモーション) を生成する手法を提案しています。

そもそも character animation の生成には、大きくわけて

  1. 予め作られた motion data を再生する
  2. 物理エンジンと AI エンジンによって、全ての関節の動きを制御する

の2つのアプローチが考えられます。ゲームなどでは前者が採用されることが圧倒的に多く (例えば Unity の Mecanim など) 実装もシンプルで扱いやすいです。後者は非常に品質の高いアニメーションを生成することができますが、実装が難しかったり、思い通りの動きを表現する (キャラクタを操作する) のが難しかったり、物理的におかしいデフォルメの利いた動きは表現できなかったりします。

この研究では、両者のハイブリッドな手法を提案しています。基本的には motion data を再生するのですが、ものがぶつかったり、地面がデコボコだったりしたときに、物理的にもっともらしい (physically plausible) 動きをしてくれます。

この手法のメリット

この手法のメリットを簡単にまとめます。特に 1. と 2. をを両立しているところが特徴的です。

  1. デフォルメの利いた (stylized) 動きを扱うことができる (物理的におかしい動きも大丈夫)
  2. 外力に対して物理的にもっともらしい反応を表現できる
  3. リアルタイムで計算できる (50 fps 程度)

"Physically Plausible" という言い回しについて、思うところ

この論文のタイトルは "physically plausible" という形容詞で始まっています。直訳すると「物理的にもっともらしい」という意味になります。ここから、「物理的には正しくないけれども」というニュアンスを読み取ることができます。これは、芸術表現のための要素技術の研究 (私もまさにそういった研究を行っていますが) を紹介する上で非常に重要な概念です。

よく違う分野の人には「物理的に正しくない手法を提案しても価値がない」、「何を目指しているのか分からない」といった意見を頂くことが多いです。芸術分野において、確かに「写実主義」と呼ばれる (かつては主流であった) 一連の主張が存在しますし、そこにおいては、物理的に正しいものが正解 (少なくとも正解に近い) であり、目指すものは現実のありのままの姿です。

しかしながら、現在では「必ずしも芸術の本質は写実性にはない」という考え方が主流となっています。例えば印象派キュビズム (もっと言えばカートゥーン、漫画、アニメ) などの言葉は芸術分野における市民権を獲得したと言えますが、これらはいずれも写実主義とは考え方が異なります。そこでは "artistic distortion" と呼ばれる (私が勝手に呼んでいる) 非写実的表現 (要はデフォルメのこと) が作品の中に様々な形式で表れ、それを通して芸術家は主観や意図を作品に組み込むことができたりします。

「芸術表現のための要素技術の研究」は、必ずしも前者ではなく、むしろ後者を意識して行われることが多いです。つまり、表現者がいかにして artistic distortion を実現するかという点が重要視されます。特に三次元 CG アニメーションは比較的新しい芸術様式ですから、技術革新によって次々と新しい表現が可能となっていきます。今回紹介した研究も、そのような流れの一つと言えるのではないでしょうか。

もちろん上記だけでこのような研究の意義についての defense ができたとは思っていません。またいつか、別の記事で書き足したいと思います。

研究動画について、思うところ

CG の研究では、論文と一緒に数分の動画を投稿するのが普通です。今回の論文にも、それとセットの動画が添付されています。著者の web ページにてダウンロードすることが可能です。

CG 研究者や CG 研究に携わる学生に言いたいことは、是非ともその動画を YouTube や vimeo などといった動画共有サービスにおいて公開して欲しいということです。メリットこそあれデメリットは少ないはずです。

研究とは人類の叡智に貢献することだと思っていますが、その積み重ねた叡智を、よりアクセスの容易な場所で公開することで、より多くの人 (非研究者を含む) に共有して欲しいと個人的には思っています。