論文読み: From Inspired Modeling to Creative Modeling (The Visual Computer 2016)

はじめに

今回紹介するのは、最近 Springer 社のジャーナル The Visual Computer に掲載された論文です。全体を大雑把に触れつつ、印象に残ったフレーズなどを引用しながらまとめたいと思います。

Daniel Cohen-Or and Hao Zhang.
From inspired modeling to creative modeling.
The Visual Computer (2016).
DOI

論文の位置付け

この論文は新しい技術を提案するものではなく、「形状モデリングにおける創造性」というテーマに沿って議論し、まとめたものとなっています。メタ研究的な位置付けで、単純なサーベイ論文とは少し違っています。

この論文の目的

Computational creativity と呼ばれる研究分野があります。Wikipedia によると、この分野は次の3つの目標を掲げています(意訳):

  1. 人間の創造的な活動を支援する
  2. 人間の創造性を理解し、アルゴリズムとして定式化する
  3. 人間レベルの創造性を有するシステムを構築する

下の項目ほど究極的で難しい目標といえます。

この論文は、computational creativity の中でも、特に computer graphics における形状モデリング (geometric modeling) というデザインタスクに関する創造性にフォーカスをあてて議論することを目的としています。具体的には、上述の目標 1. を掘り下げた次の問い:

Can machines assist or inspire humans in a creative endeavor for the generation of geometric forms?

を主題として議論を進めていきます。

創造性とは何か?

このような問いを考察するにあたって、まず創造性の定義を確認しておくことは重要です。しかしながら、創造性を厳密に定義するのは容易ではありません。そこでこの論文では明示的な定義を避け、代わりに心理学や人工知能の分野の文献を幾つか引用した上で、以下のように簡単に説明しています:

A common view is that creativity is innately linked with unpredictability or the elements of surprise (5). Specific to computer graphics, creative inspirations to modelers are often in the form of new models that were not envisioned and contain certain elements of surprise or unexpectedness.

創造性について議論する上でのキーワードとして unpredictability という言葉が使われています。著者らは、unpredictability はランダムな振る舞い (stochastic process) をシミュレートすることで達成されうるという考えを述べています。ただし、単にランダムな振る舞いによって形状モデルを生成したり提示したりするだけでは効果的ではなく、

... the presented models remain sensible and follow the rationale of the modeling task.

という条件を達成するために、unpredictability に加えて controllability も考慮する必要があるとも述べています。簡単に言えば、controllability を欠いた完全なデタラメでは、創造的タスクの支援において役に立たないということです。この unpredictability と controllability は互いに競合する目標ですが、両者がバランスよく達成されていることが重要だと述べています。

Inspired Modeling から Creative Modeling へ

上述の内容を踏まえた上で、この論文ではまず inspired modeling と呼ばれる手法について議論します。これは必ずしも unpredictable and controllable ではないものの、何らかの inspiration をユーザに与えることで形状モデリングに関する創造的タスクの実施を支援するものです。代表的手法として、(1) exploratory modeling 及び (2) example-driven synthesis をとり挙げます。

続いて、unpredictability や controllability をより明示的な形で考慮する creative modeling と呼ばれる手法について議論します。代表的手法として (1) evolutionary algorithms と (2) co-creation をとり挙げます。

Inspired Modeling

1. Exploratory Modeling

Exploration という言葉はこの分野の論文では頻繁に用いられ、日本語ではよく「探索」と訳されます。この論文では exploratory design の特徴を

... when the user starts his journey, he does not know where he is heading.

と表現しています。ここで、journey は design task を遂行する過程を比喩的に表したものです。多少私見を交えてこれを解釈すると「明確なデザインのビジョンがない状態でデザインタスクを開始し、試行錯誤を繰り返す中でビジョンを形成していく、open-ended なデザインタスクの進め方」を exploratory design と呼んでいるのだと思います。創造的なデザインタスクを遂行することは、基本的には exploratory だとみなすことができます。

Exploratory design を支援する代表的な手法として、Marks らによる Design Galleries が挙げられています:

J. Marks, B. Andalman, P. A. Beardsley, W. Freeman, S. Gibson, J. Hodgins, T. Kang, B. Mirtich, H. Pfister, W. Ruml, K. Ryall, J. Seims, and S. Shieber.
Design galleries: a general approach to setting parameters for computer graphics and animation.
SIGGRAPH 1997.
DOI

このシステムは、デザインパラメタが張る空間の exploration を効率化するために、デザイン空間をランダムサンプリングし、幾つかのサンプリング点をユーザに対し視覚的に提示します。サンプリング点はユーザにとって unexpected であるため、creative modeling としての性質も部分的にはあると考えられますが、著者らはこれに関して

We argue that while a random result could be inspiring, we would like an inspiring tool to be smarter to offer more targeted inspirations and to allow the user a sufficient level of control.

と述べ、controllability に関する扱いが不十分であると位置付けています。

他の exploratory modeling のアプローチとして、尤もらしいデザイン要素をユーザに提示することで、ユーザがデザイン要素を選択して組み立てていくことを効率化するという方法があります。この例として、以下の論文が言及されています:

Siddhartha Chaudhuri, Evangelos Kalogerakis, Leonidas Guibas, and Vladlen Koltun.
Probabilistic reasoning for assembly-based 3D modeling.
SIGGRAPH 2011.
DOI

この研究では probability を考慮することで提示内容の controllability を高めたと考えることができますが、一方で

... these techniques model the expected, in a probabilistic sense, rather than directly striving for the unexpected or the creative.

です。つまり unpredictability に関する扱いが不十分であるため、creative modeling としては位置付けていません。

2. Example-Driven Synthesis

ここでの synthesis とは三次元モデルを合成(生成)することを指しています。Example-driven synthesis では、事前入力として少数の事例(例えば椅子の三次元モデルを5種類、など)を与え、そこからシステムが自動的に同じカテゴリに属する三次元モデルを新しく生成します。このようなパラダイムのことを論文では「More of the same」と表現しており、具体的には次のような問題と捉えています:

... given a set of examples, how to generate more of the same, in the positive sense, more instances that clearly appear to belong to the same class as the input set of examples.

Example-driven synthesis の具体的として、以下の論文が紹介されています:

William Baxter and Ken-ich Anjyo.
Latent Doodle Space.
Eurographics 2006.

これは OLM Digital の安生さんらによる論文で、ユーザが線画を幾つか例として与えると、システムがそれらを学習して新たな線画を生成することができたりする手法を提案しています。

創造性という観点で example-driven synthesis の手法を考えたとき、著者らは

... the generated instances were not aimed to include unexpected results or be truly creative in any sense.

という解釈を示しています。つまり、生成される結果に対して unpredictability が十分に含まれていないため、「真に創造的」ではないとしています。

Creative Modeling

1. Creativity by Evolution

創造的なアプローチの代表例として著者らが最初に取り上げるのは、進化計算 (遺伝的アルゴリズム) による方法です。遺伝的アルゴリズム

  • Mutation (突然変異)
  • Cross-over (交叉)
  • Selection (選択)

の3つの処理からなります。それぞれの処理において stochastic な振る舞いを用いることによって unpredictability を取り入れることができる一方で、selection の処理の際に使われる fitness function を適切にデザインすることによって controllability を保証することができます。

遺伝的アルゴリズムによる三次元モデルの生成は昔から行われてきましたが、特に最近の例として以下の論文が紹介されています:

Kai Xu, Hao Zhang, Daniel Cohen-Or, and Baoquan Chen.
Fit and diverse: set evolution for inspiring 3D shape galleries.
SIGGRAPH 2012.
Project page

この研究ではユーザ自身が fitness function として振る舞う、対話型遺伝的アルゴリズムの方式をとっています。更に、creative modeling という文脈でより効果的にするための工夫として、生成されるモデルの diversity を保つような定式化をしています。

2. Creativity from Co-Creation

創造的なアプローチとしてもう1つ取り上げるのは co-creation による方法です。Wikipedia によると co-creation は

Co-creation is a management initiative, or form of economic strategy, that brings different parties together, in order to jointly produce a mutually valued outcome.

と説明されています。それぞれのクリエータが独立に作業をし、互いに何を創作しているか分からないような状況を作ることによって、unexpectedness が発生する可能性を高めることができるというのが重要なアイデアです。

ただし、この unexpectedness は完全な randomness とは異なるとも述べています。それぞれのクリエータが全体の作業における自分の役割を認識していたり、または

... they should only be concealed partially, so that each creator sees a hint to constrain hiw/her own contribution.

のようにそれぞれの貢献を部分的に共有したりすることで、controllability を担保することができると考えられます。
このような co-creation による創造性のメカニズムを理解するための具体例として、exquisite corpse というゲームを紹介しています。ゲームを知らない場合は以下の動画をご覧ください:


このゲームでは与えられたテーマや境界における情報が controllability を担保する部分となっています。

さて、この co-creation において最も興味深い将来展望として、human-computer co-creation というコンセプトを紹介しています。よく似たコンセプトとして creativity support tool が human-computer interaction (HCI) の分野 (e.g., CHI, UIST, CSCW, ...) で研究されていますが、これはあくまでユーザの創造性を accelerate するだけで、コンピュータ自身が創作を行うものではありません。


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各コンセプトの比較。Creativity support tool は必ずしもシステムそのものが創造的活動を行うわけではない。Generative systems はこの論文では詳しく触れていないが、システムが自動的に創作をし、ユーザにその結果を提示する。Human-computer co-creation ではユーザとシステム双方が創作を行う。

また、この human-computer co-creation というコンセプトは全く新しいわけではなく、抽象画の創作などのアプリケーションですでに事例が報告されています:

Nicholas Davis, Chih-Pin Hsiao, Yanna Popova, and Brian Magerko.
An enactive model of creativity for computational collaboration and co-creation.
Creativity in the Digital Age (Book Chapter).
DOI

今後は、形状モデリングを含む様々なデザインドメインにおいて、human-computer co-creation の論文が登場していくと思われます。

最後に(+自分の研究の宣伝)

この論文は、形状モデリングを具体的なトピックとして考えていたものの、広く「デザインにおける創造性」について議論したものとなっていました。Computational design におけるデザインの評価軸として、近年の SIGGRAPH では functionality を扱った研究が発表されるようになってきました:

Yuki Koyama, Shinjiro Sueda, Emma Steinhardt, Takeo Igarashi, Ariel Shamir, and Wojciech Matusik.
AutoConnect: Computational design of 3D-printable connectors.
SIGGRAPH Asia 2015.
Project page

また、HCI の分野ではデザインの aesthetic preference を評価軸として扱う研究も登場しています:

Yuki Koyama, Daisuke Sakamoto, and Takeo Igarashi.
Crowd-powered parameter analysis for visual design exploration.
UIST 2014.
Project page

これら functionality, aesthetic preference を考慮することに加えて、この論文では

The new criteria that are key to design applications include aesthetics, functionality, and inevitably, creativity.

と、creativity が重要だと主張しています。これが computational design 研究の次の大きな流れになっていくのかもしれません。

また、この論文で議論してきた内容は computer graphics の分野だけでなく computational creativity、人工知能、HCI などとも深く関連があります。なぜ computer graphics の分野でこのような議論を行う必要があるのかという疑問に対して、著者らは次のような主張をしています:

We should all believe that computer graphics is far beyond image synthesis. It is capable, and should be driven, to supplement humans at a much earlier stage in the synthesis pipeline, as early as creative design and conceptualization.

最後にこの論文では、創造性はパーソナルなものである、つまり

... difference individuals exhibit and resonnate with different types of creativity thinking.

と指摘しています。その上で、個人差を考慮して創造的タスクの支援などを行っていくことの重要性を指摘しています。Personal preference を学習することでデザインを支援する研究として次のものがあります:

Yuki Koyama, Daisuke Sakamoto, and Takeo Igarashi.
SelPh: Progressive learning and support of manual photo color enhancement.
CHI 2016.
Project page

今後は、personal preference learning と computational creativity を結びつけた研究が登場していくことになると思います。